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「アストロバイオロジーセンターってどんな研究をするところ?」
アストロバイオロジーセンター 日下部 展彦 特任専門員
1995年に太陽系外惑星が発見され、それ以降現在まで4000個を超える系外惑星が発見されています。その中には、液体の水が存在しうる系外惑星も含まれ、宇宙における生命について考えることは、サイエンス・フィクションにとどまらず、科学的に検討できるテーマとなりました。天文学者は、星や惑星、その材料となる宇宙に存在するガスや塵などについてよく知っている一方、どの環境でならば生命が存在しうるかなど、生物学的な知見は少なく、生物学の研究者との学際的研究が必要不可欠となりました。
このような背景から、2015年、自然科学研究機構では、系外惑星の研究を軸とした「アストロバイオロジーセンター」を設立しました。当センターは、「系外惑星探査プロジェクト室」「宇宙生命探査プロジェクト室」「アストロバイオロジー装置開発室」の3室で構成しており、それぞれの成果をフィードバックしながら宇宙における生命の兆候を探すための研究を進めています。
ここでは、宇宙における生命に対し、アストロバイオロジーセンターではどういう研究を進めているのかについて、全体像を簡単にご紹介します。
「系外惑星の観測とアストロバイオロジー:現状と今後」
アストロバイオロジーセンター 田村 元秀 センター長
太陽以外の恒星をめぐる惑星(系外惑星)の発見が2019年ノーベル物理学賞を受賞したのは、皆さんも記憶に新しいと思います。この発見を契機として、系外惑星の研究はわずか25年ほどで現代天文学の最もホットなテーマのひとつとなりました。その理由としては以下のことが挙げられます。
(1)系外惑星は実に多様です。人類は太陽系を手本として、太陽のような恒星と8個の惑星(と多数の小天体)の起源と進化を理解しようとしていましたが、今や、恒星はもちろん惑星の研究も太陽系に閉じる必要はなくなりました。
(2)系外惑星の観測方法は実に多彩です。天文観測技術の近年の進展は著しく、大小さまざまな望遠鏡に特別な装置や工夫をした観測を行うことで、多種多様な系外惑星が発見できるようになりました。とりわけ、系外惑星を直接に画像に写せるようになったことは、現代の技術の一つの到達点を表していると言えると思います。
(3)地球のような生命を宿せる系外惑星の観測が実現できるようになってきました。これによって、「地球だけが生命を宿す特別な存在なのか?」それとも「多数の第二の地球が存在し、そこには生命が存在するのか?」と言った、人類の根源的・普遍的な問いに挑戦する試みが始まり、宇宙に生命の起源や進化などを研究する「アストロバイオロジー」に注目が集まっています。日本でも、これまでの直接観測の成功などを背景に、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターを中心として新たな世界最先端装置が開発され、その観測が本格化しつつあり、天文学と生物学とが連携した研究も進みつつあります。
本講演では、系外惑星観測の25年を振り返るとともに、この数年の大きな発見について紹介します。また、すばる望遠鏡における赤外線による地球型惑星観測や超補償光学系の成果についても解説します。さらに、近い将来計画として、地上の30メートル望遠鏡の目標と旗艦スペース望遠鏡であるJWSTとRoman宇宙望遠鏡への期待と貢献についても述べます。
「系外惑星観測の最新技術(IRD、REACH、TMTに向けて)」
アストロバイオロジーセンター 小谷 隆行 助教
天文学の発展の歴史は、観測技術の発展の歴史でもあります。アストロバイオロジーセンターでは、新たな太陽系外惑星の発見と、惑星大気組成などを明らかにするための、最先端の観測装置開発を行っています。本講演では、すばる望遠鏡用の観測装置であるIRDと極限補償光学、そして将来の地上30メートル級望遠鏡による、地球に似た惑星の探査と生命の痕跡を調べる観測装置について紹介します。
IRDは、近赤外線と呼ばれる天体の光を非常に細かく分解してスペクトルを測定する装置で、これにより系外惑星が恒星のまわりを公転することで生じる恒星の「速度のふらつき」を極めて高精度に測定し、惑星の存在を突き止めます。IRDは特に、地球に似た惑星を発見することを目的に開発され、昨年からすばる望遠鏡の観測時間を5年間で170夜以上使用する大規模観測を開始しました。
惑星の存在が確認されれば、次は「直接撮像」という手法で、惑星自体から発せられる光を直接詳しく調べます。そのためには、観測の妨げになる地球大気の揺らぎと、惑星よりも何桁も明るい恒星の光を取り除く必要があります。そのための観測装置が「極限補償光学」と呼ばれる、大気の乱れをリアルタイムで測定し高速で補正する装置です。私たちは、この極限補償光学とIRDを組み合わせることで、系外惑星の大気組成を非常に詳しく調べることを可能にしました。これによって、生まれて間もない木星程度の質量の系外惑星を詳細に調べることができます。
次の、そして究極の目標は将来の口径30メートル級望遠鏡による、地球に似た系外惑星の直接撮像観測と、系外惑星に生命の痕跡を探ることです。これには、IRDと極限補償光学をさらに発展させた観測装置が必要になります。この究極の観測装置は、国際共同開発となりますが、アストロバイオロジーセンターはその中でも極めて重要な部分を担当することになります。