素粒子原子核研究所

素粒子原子核研究所

全ての物は細かく見ていくと、分子、原子、原子核、そして素粒子に辿り着きます。素粒子は、これ以上分けることのできない物質の最小単位です。素粒子や原子核のように極微な物の性質を理解することは、壮大な宇宙誕生の謎を解明する重要な手がかりとなり得るのです。素粒子原子核研究所では、素粒子物理学、原子核物理学、宇宙物理学という極微な世界から広大な宇宙までの幅広い分野に対して、理論及び実験の両側面からの総合的研究を行っています。

素粒子原子核研究所

素粒子原子核研究所

素粒子原子核研究所では、大きく分けて5つの分野の研究と、それらの研究に不可欠な技術開発に取り組んでいます。

エネルギーフロンティア実験

人類未到の高エネルギーでの物理法則の探究

高エネルギー加速器で誕生直後の宇宙を支配していた素粒子とその現象を創り出し、直接観測するのがエネルギーフロンティア実験です。現在は、スイス、ジュネーブ近郊にあるCERNのLHC/ATLAS国際共同実験を進め、LHC実験が発見したヒッグス粒子の性質の徹底解明と未知粒子の発見を目指しています。また、様々な次世代エネルギーフロンティア実験が計画されており、その代表例として、直線衝突型加速器「国際リニアコライダー計画(ILC)」があります。

エネルギーフロンティア実験

©2006-2023 CERN

素粒子の性質の精密測定

世界最高衝突性能の加速器で新物理法則の発見を目指す

未解明な宇宙の謎を解く鍵となる新しい物理現象を探す、Belle II実験。SuperKEKB加速器で生成される粒子が崩壊するパターンを詳細に調べることで、粒子・反粒子の対称性の破れや宇宙初期に起こったはずの極めて稀な現象を再現し、未知の粒子や力の性質を明らかにします。それにより新しい物理法則の解明を目指し、宇宙から反物質が消えた謎や暗黒物質の正体に迫ります。

素粒子の性質の精密測定

原子核/ハドロン物理

多彩なビームで探る宇宙・物質の起源

「ハドロン」とは、強い相互作用をしている粒子の総称です。ハドロン実験では、物質を構成する究極の要素が何であるか、どのような力がそれらを結びつけているかといった、物質の根源が何であるかを極微のスケールで探究します。陽子・中性子以外の粒子を含む通常にはない原子核を生成し、原子核をまとめている核力の研究をするほか、原子核素粒子物理学の多様な実験を行っています。

原子核/ハドロン物理

また、埼玉県和光市の理化学研究所内にある、和光原子核科学センターでは、KEKが開発した国際的にユニークな原子核実験装置KISSを使って自然には安定に存在しない短寿命な原子核を人工的に作り出し、共同利用実験に供しています。同センターは、理化学研究所 仁科加速器科学研究センターと連携して、新同位体の発見や、宇宙における元素の起源の解明を目指しています。(短寿命核実験)。

宇宙素粒子物理

宇宙を実験室に、物理学の根本法則を探求する

この宇宙は、138億年前に熱いビッグバン以前の急速な膨張「インフレーション」から始まったと考えられます。この決定的な証拠を探るために宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測が行われています。この宇宙最古の光の中に、インフレーションの痕跡が刻まれていると予想されています。CMBの中に特殊な偏光モード(Bモード偏光)が刻まれていることが観測できれば、それがインフレーションの証拠となり、科学史において最大級の発見となるのです。KEK CMBグループでは、地上観測実験POLARBEAR(ポーラーベア)とLiteBIRD(ライトバード)衛星計画により、CMBのBモード偏光観測達成を目指しています。

宇宙素粒子物理

理論物理

究極への探究

宇宙を支配する法則とは何か。宇宙はどのように始まったのか。素粒子原子核研究所で行われている多くの実験プロジェクトは、こうした疑問にせまる取り組みと言ってもよいでしょう。それらを支えているのが理論研究です。素粒子の法則はどうなっているのか。原子核の性質は? ダークマターの正体は何か? 空間とは、時間とは、そして量子とは何か? 理論センターでは、実験データと数学と計算機、そして想像力を駆使して「究極」を探求しています。

理論物理

測定器開発センター

技術革新による未知の発見

測定器開発センターは、測定器開発テストビームラインの運用を目玉に、分野を超えた測定器開発の拠点として、あるいは研究者交流の場として、測定器技術開発を大学共同利用ユーザーと共に進めていくことを目的に2022年に創設されました。素粒子原子核分野に閉じることなく幅広い分野の研究者が交流することで新しい研究の芽を育て、若手研究者が自由な発想のもと活躍できる場になることを目指しています。

測定器開発センター

最先端の実験に不可欠な技術開発グループ

素粒子原子核研究所で行われている様々な実験に必要な装置の設計・加工・組立を行なっています。実験装置のセンサーからシステムに至るまで、既存の技術を超えた新たな技術を生み出し開発を行なっています。また、粒子検出器で利用される極低温機器の開発支援や運転も担っています。

小林・益川理論50周年

小林・益川理論50周年

小林誠博士(KEK特別栄誉教授)と故・益川敏英博士(京都大学名誉教授)による、いわゆる「小林・益川理論」の論文は1973年に学術誌『Progress of Theoretical Physics』に発表されました。2023年は50年の節目の年になります。

提唱した当時若手研究者だった両博士は、3世代(6種類)以上のクォーク(物質をつくる素粒子)が存在すればCP対称性が破れることを論文に示しました。当時は3種類のクォークしか知られていませんでしたが、1974年にチャームクォーク、1977年にボトムクォーク、1995年にトップクォークが発見されました。CP対称性の破れについても、KEKで行われたBelle実験などによって小林・益川理論の正しさが実証され、両博士は2008年、ノーベル物理学賞を受賞しました。

50周年を記念して、今年2月に「小林・益川理論50周年記念講演会~なぜ人類は宇宙に存在しえるのか?―対称性のほころびの不思議さ-」
(https://www2.kek.jp/outreach/km50/ )を一橋講堂で行いました。 講演会、パネルディスカッションの様子はこちらからご覧いただけます。

第一部・講演の部

第二部・パネルディスカッション