誰もがオープンに利用できる
データベースの構築
あることばが、誰に向けて、どのような場面で、どのような頻度で、どのように使われているのかといった「ことばの実態」を個人で調べようとしても、昔は困難で長い時間がかかりました。けれども現在では「コーパス」を使うことで、誰でも短時間で調べることが可能になりました。コーパスとは、言語研究に必要な情報(品詞など)を付与したことばを、検索可能な形で大量に集めたデータベースです。
例えば、「日本」には「ニホン」と「ニッポン」という二つの読み方がありますが、実際にはどちらが多く使われているのでしょうか? テレビのニュース番組では「ニッポン」をよく耳にします。「ニッポン」が多いのでしょうか?
「日本語話し言葉コーパス」(750万語規模)で調べてみると、「ニホン」が7,851回使われていたのに対し、「ニッポン」は195回しか使われていませんでした。つまり、日常の話し言葉では「ニッポン」よりも「ニホン」が圧倒的に多いということです。コーパスで調べてみると、メディアの印象が強く残りがちな私たちの「認識」は、必ずしも「実態」とは一致していないことが分かります。
もっと知りたい方は、以下の動画をご覧ください。
「コーパスとは?」前川 喜久雄
(国立国語研究所 教授)
日本の消滅危機言語の保存と継承
動物と同じように、言語にもたくさんの絶滅危惧種があります。そうした「誰も話さなくなって世界から消えていきそうな」言語のことを、消滅危機言語と言います。ユネスコが公表した世界2,500の消滅危機言語のリストには、日本で話されている8 つの言語―アイヌ語、八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語―が含まれています。これらだけではなく日本各地の伝統的な方言もまた、消滅の危機にあります。言語の記録保存と継承保存とはどのように行われるのでしょうか。次の動画に答えがあります。
講義「消滅危機言語の記録保存と継承保存」(山田真寛)/言語学レクチャーシリーズ(試験版)Vol.21
国語研ではこれらの言語を記録し、その価値を訴え、継承活動を支援するプロジェクトを行っています。また、国語研の枠を超えた取り組み例としては、国語研の研究者が参加するプロジェクト「言語復興の港」が、クラウドファンディングにより琉球諸語の絵本を出版しています(島人の朗読音声付き)。
言語生活の実態を調べる
世界最長の調査
「言語生活」とは、「食生活」と同じように、われわれが日常でどのようなことばを、どのように使うかといった、「ことば」をめぐるあらゆることを指します。国語研は、私たちが普段は意識していないことばを見つめ、その実態の記録、保存、記述に取り組むことに力を入れています。例えば、こういった研究があります。
日本にはさまざまな方言がありますが、現在では、全国どこでも「同じことば」を使うことでコミュニケーションが取れます。しかし、この「共通語」が全国に普及したのは比較的最近のことです。
山形県鶴岡市において、国語研は60年にわたり共通語化の進み方を調べました。約20年間隔で無作為に選んだ方を調査すると同時に、個人の変化を調べるために、以前の調査対象者にも再調査(追跡調査)を行っています(コウホート系列法)。初回調査(1950年)では15歳だった対象者が第4回調査時(2011年)には76歳になっています。こうした人の一生の大半を追いかける形式の調査としては、世界でも古く、定期的なランダムサンプリング調査と、個人を追いかける追跡調査を組み合わせた調査としては世界最長、ということになります。