情報から 知 を紡ぎだす

国立情報学研究所


国立情報学研究所とは

「研究」と「事業」を両輪として、情報学による未来価値を創成します

国立情報学研究所(NII)は、情報学という新しい学術分野での「未来価値創成」を使命とする国内唯一の学術総合研究所です。情報学における基礎論から、人工知能、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)、情報セキュリティといった最先端のテーマまで、長期的な視点に立つ基礎研究、ならびに、社会課題の解決をめざした実践的な研究を推進しています。

また、学術情報ネットワーク(SINET)等の学術研究コミュニティ全体の研究や教育活動に不可欠な学術情報基盤の構築・運用、学術コンテンツやサービスプラットフォームの提供、研究データ基盤の整備等の事業を展開・発展させ、事業を通じて得られた知見と学術研究から得られた知見を相互にフィードバックすることにより、最先端技術を利用した事業を行っています。

こうした活動を通じて人材育成と社会貢献・国際貢献に努めると共に、国内外の大学や研究機関、民間企業等との連携・協力も重視した運営を行っています。

さらに、独創的・国際的な学術研究の推進や先導的学問分野の開拓をめざす大学院教育にも取り組んでいます。

国立情報学研究所ウェブサイト


国立情報学研究所ではどんな研究をしているの?

「情報学」は、計算機科学や情報工学だけでなく、人文・社会科学や生命科学など他の領域とも融合し、社会のあらゆる側面に関わる新しい学術領域です。国立情報学研究所は、4つの研究系と、16の研究施設(センター)を設置して、情報学の基礎論から、人工知能、ビッグデータ、IoT、情報セキュリティなどの最先端のテーマまで、総合的に研究を推進しています。また、海外の大学・研究機関との国際交流や国際連携、研究成果を社会実装へ結び付けるための産官学連携にも力を入れています。

今回は、

  1. AIが生み出す情報の良い面・悪い面を取り上げ、健全な人間中心のAI社会の実現を目指すシンセティックメディア国際研究センター
  2. AIが実社会において動作する際、いかにその仕組みの安全・安心を保証するかを研究する石川准教授
  3. コンピュータが言語を理解するための評価方法を研究する菅原助教
  4. 機械学習を効率よく行うためのアルゴリズムを研究する藤井助教
の4つの取り組みを紹介します。


健全なネット社会を実現する

シンセティックメディア国際研究センター

顔、音声、身体、自然言語などの人間由来の情報をAIが学習し、本物と見紛うシンセティックメディア(Synthetic media)の生成が可能になりつつあります。シンセティックメディアは、バーチャルアバターなどのコミュニケーション分野や、落語音声合成などのエンターテイメント分野を始めとした様々な分野で活用が期待されており、高品質なシンセティックメディア生成技術の確立が期待されています。

一方で、シンセティックメディアの負の側面として、詐欺や思考誘導、世論操作を行う目的で、愉快犯や攻撃者が、フェイク映像、フェイク音声、フェイク文書といったフェイクメディアを生成,流通させる可能性があり,社会問題となっています。

シンセティックメディア国際研究センター(SynMedia Center)では、人間中心のAI社会を実現するために、顔、音声、身体、自然言語などの多様なモダリティを対象とした、シンセティックメディアの生成、不正な目的で生成されたシンセティックメディア(フェイクメディア)の検知、メディアの信頼性確保、意思決定支援のための研究開発を、実世界の課題を取り上げながら、研究展開を図ります。

シンセティックメディア国際研究センターウェブサイト

ニュースリリース:AIにより生成されたフェイク顔映像を自動判定するプログラム SYNTHETIQ: Synthetic video detectorを開発~AI動画の生成、フェイクメディアの検知、メディアの信頼性確保の研究を推進~


ニーズに応じてAIを仕立て上げる

石川 冬樹 ISHIKAWA Fuyuki アーキテクチャ科学研究系 准教授

ソフトウェアシステムが社会で果たす役割はますます大きくなり、その開発・運用において高い品質を効率的に担保することが強く求められています。一方で、機械学習を用いて構築したシステムや自動運転システムなど、複雑さ・不確かさが高いシステムも現れています。このため従来の方法での品質の向上・保証が難しくなっています。

これに対し、不確かさの中での要求や仕様、想定環境に対し「何に注目して、何をすべきか」をエンジニアが議論し、系統的、継続的に確認・改善していくための「道具立て」に取り組んでいます。さらに、複雑なシステムに対しても個々の問題に効率的に切り込むための支援として、不具合を生じる状況、確認すべき状況の網羅、あるいは不具合の適切な修正などを自動的に「賢く探り出す」技術も追究しています。

機械学習を用いて構築したことにより振る舞いが不確かなシステム、自動運転のように実世界に深く踏み込んで動作するシステムに焦点を当てて、研究に取り組んでいます。

石川研究室ウェブサイト


人間の言葉が理解できる機械をどう評価するか

菅原 朔 SUGAWARA Saku コンテンツ科学研究系 助教

「言葉の意味がわかる」とはどのようなことなのか、言語理解という曖昧なものに形を与えたいという思いから、自然言語処理(人間の言葉をコンピューターで処理する技術)の研究をしています。

この分野の大きな目標のひとつは、人間のように文章を理解するシステムを作ることです。一時期の人工知能ブームでは、「やがて人の知能を超える人工知能が出現する」などと話題になりましたが、実際の機械学習はそれほど簡単なものではありません。人工知能の性能に誤解があると、社会で応用するときに大きな問題が起こるかもしれません。誇張のない正確な性能が示される必要があります。

近年は機械学習技術の進展にともなって数万単位の問題を備えたデータセットが(主に英語で)多く提案され、世界中の大学やIT企業の研究者がそれらを使ってシステムの開発を進めています。中には人間と同程度の性能と評価されるシステムも登場していますが、このような評価方法には課題が残っています。

こうした言語理解を評価するための、説明性の高いデータセットを設計・構築する研究を進めており、言語理解研究の着実な進展に貢献したいと考えています。

関連文献:
Sugawara et al. What Makes Reading Comprehension Questions Easier? In Proceedings of EMNLP 2018.
Sugawara et al. Assessing the Benchmarking Capacity of Machine Reading Comprehension Datasets. In Proceedings of AAAI 2020.
Bowman and Dahl. What Will it Take to Fix Benchmarking in Natural Language Understanding? In Proceedings of NAACL 2021.
Sugawara et al. Benchmarking Machine Reading Comprehension: A Psychological Perspective. In Proceedings of EACL 2021.


組合せ最適化で機械学習の問題を解決

藤井 海斗 FUJII Kaito 情報学プリンシプル研究系 助教

近年では、AI(人工知能)を教育する機械学習の効率化の研究はますます盛んになっています。その効率化のアプローチである「組合せ最適化問題」の中で、劣モジュラ性をもつ「劣モジュラ最適化問題」を数学的に研究しています。

「組合せ最適化問題」とは、例えば、昼食のためにコンビニに行き、"主食"と"おかず"と"サラダ"といったように、いくつかの商品を組み合わせて購入する際にも起こる身近な問題です。一見簡単なようですが、商品が10個の場合にその組み合わせは約1000通り、30個では約10億通りにもなります。しかし、実際には、「栄養バランスのいい組み合わせ」や、「お腹がいっぱいになる組み合わせ」などの条件をつけて商品を選ぶので、すべての組み合わせを考える必要はありません。つまり「組合せ最適化問題」では、その時々に求められる"最もいい(最適な)組み合わせ"を選ぶことで、考えなければならない組み合わせの数をぐっと少なくし、答えを得るための計算量を減らせるのです。

「劣モジュラ最適化問題」の考え方は、機械学習を効率化させる、「能動学習」や「特徴選択」に応用できます。「劣モジュラ最適化問題」研究の副産物として得られるアルゴリズムを、「能動学習」と「特徴選択」に応用したいと思っています。将来的には、実際の問題の解決を目指した共同研究も考えています。

関連文献:
近似的劣モジュラ性(localizability)を用いて局所探索を解析
Kaito Fujii. Approximation guarantees of local search algorithms via localizability of set functions. ICML 2020, pp. 3327–3336.
近似的劣モジュラ性を利用して辞書選択のアルゴリズムを提案
Kaito Fujii, Tasuku Soma. Fast greedy algorithms for dictionary selection with generalized sparsity constraints. NeurIPS 2018, pp. 4749–4758.

藤井助教ウェブサイト

国立情報学研究所ではどんな事業をしているの?

学術研究基盤や教育活動を支える事業として、国立情報学研究所は、大学・研究機関、研究コミュニティと連携し、学術情報ネットワーク(SINET)を構築・運用しています。SINETの超高速・高信頼・高機能なネットワークを活かし、認証連携基盤、クラウド導入・活用支援、学術コンテンツ基盤の整備・提供、オープンサイエンスの推進、次世代学術研究プラットフォームの開発に取り組んでいます。また、大学間連携に基づく情報セキュリティ体制基盤では、国立大学法人等が迅速にインシデント等に対応できる体制構築に貢献しています。


SINET5(学術情報ネットワーク)

全国の大学・研究機関に必要不可欠なネットワークインフラを提供

学術情報ネットワークSINETは、日本全国の大学、研究機関等の学術情報基盤として、国立情報学研究所が構築、運用している情報通信ネットワークです。教育・研究に携わる数多くの人々のコミュニティ形成を支援し、多岐にわたる学術情報の流通促進を図るため、全国にノード(ネットワークの接続拠点)を設置し、大学、研究機関等に対して先進的なネットワークを提供しています。

また、国際的な先端研究プロジェクトで必要とされる国際間の研究情報流通を円滑に進められるよう、米国Internet2や欧州GÉANTをはじめとする、多くの海外研究ネットワークと相互接続しています。

2022年4月からは、従来の学術情報基盤であるSINET5を発展させたSINET6の本格運用を開始します。

クラウドやセキュリティ、学術コンテンツ、研究データ、モバイルを全国400Gbpsネットワークで有機的につなぎ、約1,000の大学・研究機関、約300万人の学生・教員・研究者に教育・研究環境の高度化を実現するハイレベルな学術情報基盤を提供します。

より多面的な教育・研究環境を支援

2018年12月から実証実験をスタートした新サービスSINET「広域データ収集基盤」は、Society5.0の実現に向けて、環境・生態・IoT研究などモバイル端末からSINETのセキュアなネットワークサービス(L2VPN)との連携により、研究データの安全な収集が可能であり、多様なデータ処理環境への接続により、ワンストップかつ広範囲な研究環境の実現が可能となります。

2021年3月には、データ活用に関する研究、産学官連携、社会実装の全国での展開を支援するためのプラットフォームであるデータ活用社会創成プラットフォーム「mdx」を、千葉県柏市の東京大学柏Ⅱキャンパスに導入しました。

mdxは、高性能な計算機と大容量のストレージを備え、SINETと連携することで、広域からのデータ収集機能と、データ集積・処理機能を、企業や自治体との共同研究も含めた全国の大学・公的研究機関が関与する様々なデータ活用の取組に提供し、さらにはデータ活用のコミュニティーを形成して分野・セクタを横断した連携を触媒するハブとなることを目指します。

ニュースリリース:データ活用社会創成プラットフォームmdxを導入-9大学2研究機関が共同運営しデータ活用の産学官連携・社会実装・研究を推進-

教育機関DXシンポ

大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム

国立情報学研究所では、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況に鑑み、大学等における遠隔授業等に関する情報をできるだけ共有することを目的に、2020年3月末より週1回から隔週のペースで、大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム「教育機関DXシンポ」(「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」から名称変更)を継続的に開催しています。

同シンポジウムでは、遠隔授業の先行的事例の紹介や情報交換、著作権法の解釈や法改正、諸外国の大学における事例、医学部や工学部等での実習方法、オンラインによる学生生活支援、対面授業とのハイブリッド事例など、時々刻々と提起される大学等における遠隔授業や教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に関わる焦眉の課題をテーマに幅広い内容の講演を行ってきました。

シンポジウムのスタートから1年半となる第40回までの延べ参加者数は約46,000人、講演本数約400本超、アーカイブ映像視聴回数253,800回超と、大学等のコロナ禍における授業等の取り組みやデジタル変革に関わる情報共有を推進しています。

「教育機関DXシンポ」

「教育機関DXシンポ」アーカイブサイト